ディスレクシア(読字障害)とマルチメディアデイジー

 こちらでは、発達障害により文字を読むことに困難があるディスレクシアの人達のためのアクセシブルな電子図書に求められるニーズの多様性と、マルチメディアデイジーによる対応状況について説明します。

 視覚に障害はなく普通に目は見えていても、発達障害などの理由により、文字が読めない人や読みにくい人達は多くいます。

 

ディスレクシアとは?

 こんなことに困っている人はいませんか?

 「日本語の単語の区切りがうまく見つけられない」
 「文章を読むのに非常に時間がかかる」
 「同じ所を何度も読む」
 「拗音、促音の認識が難しい」
 「いくら勉強しても漢字が読めるようにならない」
 「文字がゆがんで見える」
 「読もうとすると文字が動いてしまう」
 「文字を書くときにゆがんだり鏡文字になったりする」

 こうしたことに、ひとつでも心当たりがある場合は、「発達性読字障害(ディスレクシア)」の可能性があります。

 状況はさまざまで、「漢字が絵にしか見えない」場合もあれば、「易しい漢字は読める」という人もいます。「短い意味のかたまりで区切り線を入れてあげると読める」という人も多くいますし、「すらすら読むのに、長い文章になると意味の把握が出来ない」とか、「まったく文字が読み書きできない」という場合などがあり、困難さの態様は一人一人異なっています。

 文部科学省による平成24年の調査では、読み書きに困難がある生徒は 2.4%と報告されていて、各クラスに一人~二人いる可能性が高いと言えます。一般には気づきにくいけれど非常に多くの人達がこうした問題で困っていることがわかります。

 視覚障害者の場合との大きな違いとして、

 ・周囲が気が付かない。本人が気づかない場合もある。
 ・支援のための基礎的環境整備が大幅に遅れている。
 ・障害者手帳が持てない。

ということがあげられます。現状では、発達障害者には障害者手帳が発行されないために、行政の支援が十分に受けられないという問題もあります(雇用での障害者枠が適用されない、障害者の為の日常生活用具給付制度が利用できない、障害者の為の電子図書館「サピエ」の利用が出来ない県があるなど)。

他方で、ディスレクシアの人達の特徴として、

 「文字が読めないだけで知的には普通(或いはそれ以上)」
 「文字は不得手でも、図を読み解くのは得意」
 「独特の感性を持っている」「特定のことに強いこだわりを持つ」

というようなことが多くある傾向が指摘され、これらは「独創性を発揮する可能性」の高さを示しているとも言えます。

  発達性読字障害(ディスレクシア)については、次の LITALICO発達ナビのサイトに詳しく分かりやすい説明がありますので、参考にして下さい(非常に勉強になります。)

http://h-navi.jp/column/article/279

 

マルチメディアデイジー(Multimedia DAISY)

 ディスレクシアの人達にも読みやすい電子書籍の国際規格があります。それがマルチメディアデイジーです。読み上げ音声付き電子図書で、読んでいるところが画面上でハイライトされ、それが読み上げに追随していきますので、ディスレクシアの人達にも文章の内容が容易に理解できます。

  実際にどのように動作する電子図書か、下記のページでご覧頂くことが出来ます。

「マルチメディアデイジーのサンプル(ChattyBook)」

 

ニーズの多様性

 マルチメディアデイジーは世界中で長年検討と改善が行われてきた国際規格で、読み上げ音声と画面上のテキストのハイライト表示の同期や拡大縮小、配色の自由な設定、読み速度の調節など、どんなマルチメディアDAISYプレイヤーでも備えるべき標準機能があります。それ以外に、日本では日本語の文章の特性による固有のニーズがあります。

 一口に「ディスレクシア」と言っても、それぞれに困難さの状況は異なり、多様なニーズがあります。ここでは、それぞれの困難さに応じて、どのような配慮をした電子書籍が必要になるのかを述べたいと思います。
 ディスレクシアの特性は大きく大別すると、「視覚情報処理の不全」と「音韻処理の不全」があり、勿論両方に困難がある人達も多くいます。

1.視覚情報処理の不全(「文字の形の認識が難しい」など)

 文字がにじむ・ぼやける
 文字がゆがむ
 逆さ文字(鏡文字)になる
 点描画に見える、など。

 下記のホームページに、ディスレクシアの人達による文字の見え方が紹介されています。

視覚情報処理の不全によるディスレクシアの人たちの見え方

  こうした困難がある人達にとって、文字と図の区別や漢字の識別は難しいと言われています。文字と文字が重なって見えたり、ルビと文字が重なって1文字に見えたりすることもよくあるといいます。そのため、行間や文字間隔を広く取る必要がありますが、視野の狭い弱視の人には逆にそれでは読みにくくなってしまいます。従って、読み手側で必要に応じて行間や文字間隔を自由に調節できることが重要になります。
 一般にディスレクシアの人達は漢字の読みに困難がある人達が多く、そのため、全ての漢字にルビを振る支援がよく行われています。しかし、上記のように漢字とルビが1文字になって見える人にとっては、ルビが意味をなさなくなってしまいます。そのためベースの文字とルビの色を変えて欲しいというニーズもあります。
 サクセスネット(サイエンス・アクセシビリティ・ネット)では、こうした日本のディスレクシアの人達のニーズに応えるため、新しいマルチメディアDAISYプレイヤーChattyBooksを開発して、配布しています(フリーソフト)。

詳しくはChattyBooksのサイトをご覧下さい。

2.音韻処理の不全(「文字の読み方の認識が難しい」)

 ・文字と音の変換が苦手
 ・文章中の単語の区切りをみつけるのが困難、など。

 欧米の言語では単語がスペースで分かち書きされていますが、日本語の文章では分かち書きがされていません。日本人は文章を読むときに、自分では意識していませんが、脳内で自分が持っている語彙の辞書と照合しながらキーになる言葉を拾い出して意味を読み取っているといいます。この操作がうまくできないために、日本語の文章を読むことが出来ない、或いは非常に時間がかかってしまう、というのが典型的なディスレクシアの人達の困難さの現れ方です。
 そのため、ディスレクシアの子ども達に対する教育現場では、先生方が文章中の全ての漢字にルビを振ると同時に、文章中の単語の区切りに縦線を入れて意味を取りやすくすることがよく行われています。日本語のマルチメディアDAISYプレイヤーにも、これと同様の機能が必要になります。
 「マルチメディアデイジーの入手法」のページで紹介している、日本障害者リハビリテーション協会のデイジー教科書では、ユーザーの要望に応じて全ての漢字にルビを振った「全ルビ」の教科書も提供していますが、分かち書きには対応していません。
 デイジーには音声がついているので、ルビや分かち書きは不要ではないか、という素朴な疑問もありますが、「お話しや物語」のように「始めから通して聴く」だけでよいのと異なり、教材や一般文書では「必要なところを探して読む」ことが多く、音声だけだと時間がかかってしまうため、ルビは非常に有効だと言われています。必要なところを大凡みつけて、そこを丁寧に聴いて理解する、という具合です。分かち書きも同様の効果があります。実際、日本障害者リハビリテーション協会がデイジー教科書利用者を対象にして実施したアンケート調査では、利用している児童生徒の内の約30%が、文章中に単語の区切りの縦線を入れるだけで読むことが出来るようになると答えています。
 しかしながら、どのような区切りで分かち書きを行うべきか(連文節か単文節か等)、明確な基準や調査報告もない状況のため、日本障害者リハビリテーション協会のデイジー教科書では「制作基準」に分かち書きは入れていません。ディスレクシアの人達のための日本語の分かち書きの方法と効果について、今後学術的な研究調査が行われることを期待します。
 学術的に裏付けられているわけではありませんが、分かち書きされた文章を読みながら(見ながら)読み上げ音声を聞いて理解することにより、脳内に語彙の辞書が形成され、分かち書きなしでも読める文章が段々と増えていくというという指導者もいます。こうしたことから、閲覧ソフト(デイジプレイヤー)側で、自動で日本語の文章の分かち書きのON/OFFが出来るのが理想的であろうと考えられます。
 上記のサクセスネットのマルチメディアDAISYプレイヤーChattyBooksでは、ルビも分かち書きもない文章をプレイヤー側で全ルビ変換や分かち書きをする機能や、閲覧時に分かち書きをON/OFFする機能が備わっています。また、自動変換の結果に誤りががある場合は、閲覧者側で簡単にルビと分かち書きを修正することができます。詳しくはChattyBooksのページをご覧下さい。

 

書くことの支援

 読むことに困難がある人達は「書くこと」にも困難があるのが通例です。

 整った形で書いたり、文字の大きさを揃えて書くことが苦手なことが多く、偏と旁が反対になったり、鏡文字になったりすることもあります。
 ChattyBooks(Ver.2.0)では、既存のマルチメディアデイジーへのユーザーによる書き込み機能を実装しています。自分が書いた文章や数式も、その場でマルチメディアデイジーと同様にハイライトと同期して読み上げられるため、書くことの支援ツールとしても利用することが出来ます。また、記入した部分だけを印刷する機能もありますので、試験問題の解答やレポートの提出などに利用できるのではないかと考えています。

 詳しくはChattyBooksのページにあるChattyBooksのマニュアル(PDF)をご覧下さい。

 書くことが苦手な子ども達も、ChattyBooksでは自分が書いた文章が活字体の見やすい文字で表示されるために、気持ちよく書けますし、自分が書いた文章が即座に読み上げられるので、確認しながら書き続けることが出来ます。

合理的配慮としてのマルチメディアデイジー

 かつては、「マルチメディアデイジーはいいけれど、作るのが大変!」と言われていました。しかし、今はいろいろなソフトウェアが開発されて、非常に簡単に作れるようになってきています。Wordなどのワープロソフトで文書を作成するのと同じような操作で、高品質なマルチメディアデイジーを制作することが出来ます。

詳しくは「マルチメディアデイジーの作り方」をご覧下さい。

 教育機関や行政機関、会社の職場などでの「合理的配慮」のためにも、教材やさまざまな文書をマルチメディアDAISYにして、読むことに困難がある人達に提供する取り組みをして頂きたいと思います。
 特に、教育現場での「試験問題」はボランティアが作成するわけにはいきません。教師自身が制作できるようにする必要があると思います。下記のアピール文をご一読下さい。

平成26年に全国6ヶ所で実施した「マルチメディアデイジー制作講習会」で配布したアピール文「合理的配慮とマルチメディアデイジー」

 また、本サイトのトップページにある動画「超簡単!試験問題をDAISYにしよう」では、社会と数学と英語のPDFをマルチメディアデイジー化する過程をご覧頂くことが出来ます。是非、ご参考にして頂ければと思います。