ディスレクシア(読字障害)とマルチメディアデイジー
こちらでは、発達障害により文字を読むことに困難があるディスレクシアの人達のためのアクセシブルな電子図書に求められるニーズの多様性と、マルチメディアデイジーによる対応状況について説明します。
視覚に障害はなく普通に目は見えていても、発達障害などの理由により、文字が読めない人や読みにくい人達は多くいます。
ディスレクシアとは?
こんなことに困っている人はいませんか?
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「いくら勉強しても漢字が読めるようにならない」
「日本語の単語の区切りがうまく見つけられない」
「文章を読むのに非常に時間がかかる」
「同じ所を何度も読む」
「拗音、促音の認識が難しい」
「読もうとすると文字がにじんでしまう」
「文字を書くときにゆがんだり鏡文字になったりする」
こうしたことに、ひとつでも心当たりがある場合は、「発達性読字障害(ディスレクシア)」の可能性があります。
状況はさまざまで、「漢字が絵にしか見えない」場合もあれば、「易しい漢字は読める」という人もいます。「短い意味のかたまりで区切り線を入れてあげると読める」という人も多くいますし、「すらすら読むのに、長い文章になると意味の把握が出来ない」とか、「まったく文字が読み書きできない」という場合などがあり、困難さの態様は一人一人異なっています。
文部科学省による2022年の調査では、読み書きに困難がある生徒は約3.5%と報告されていて、各クラスに一人~二人いる可能性が高いと言えます。一般には気づきにくいけれど非常に多くの人達がこうした問題で困っていることがわかります。
視覚障害者の場合との大きな違いとして、
・周囲が気が付かない。本人が気づかない場合もある。
・支援のための基礎的環境整備が大幅に遅れている。
・障害者手帳が持てない。
ということがあげられます。他方で、ディスレクシアの人達の特徴として、
「文字が読めないだけで知的には普通(或いはそれ以上)」
「文字は不得手でも、図を読み解くのは得意」
「独特の感性を持っている」「特定のことに強いこだわりを持つ」
というようなことが多くある傾向が指摘され、これらは「独創性を発揮する可能性」の高さを示しているとも言えます。
最近は、発達性読字障害(ディスレクシア)については様々な支援機関が出来て支援が受けられるようになってきました。また、「限局性学習障害」という診断名が付けられるようになって、診断をしてもらえる医療機関も増えてきています。各自治体のサイトで「発達障害の対応をしている医療機関のリスト」(表現は自治体によって異なる)が公開されていて、学習障害の診断ができる医療機関も検索でいるようになってきています。
更に、URAUSSやSTRAW-Rなどの信頼できる検査ツールを用いてディスレクシアの検査(アセスメント)をオンラインで提供するNPOもあります(NPO法人学び環境相談クーポノなど)。自身の状態を正確に知ることが出来、学校での合理的配慮を依頼するときの根拠にもなりますので、アセスメントを受けておくことは大切だと思います。
マルチメディアデイジー(Multimedia DAISY)
ディスレクシアの人達にも読みやすい電子書籍の国際規格があります。それがマルチメディアデイジーです。読み上げ音声付き電子図書で、読んでいるところが画面上でハイライトされ、それが読み上げに追随していきますので、ディスレクシアの人達にも文章の内容が容易に理解できます。
実際にどのように動作する電子図書か、下記のページでご覧頂くことが出来ます。
「マルチメディアデイジーのサンプル(ChattyBook)」
マルチメディアデイジーは世界中で長年検討と改善が行われてきた国際規格で、読み上げ音声と画面上のテキストのハイライト表示の同期や拡大縮小、配色の自由な設定、読み速度の調節など、どんなマルチメディアDAISYプレイヤーでも備えるべき標準機能があります。それ以外に、日本では日本語の文章の特性による固有のニーズがあります。
そのため、ディスレクシアの子ども達に対する教育現場では、先生方が文章中の全ての漢字にルビを振ると同時に、文章中の単語の区切りに縦線を入れて意味を取りやすくすることがよく行われています。日本語のマルチメディアDAISYプレイヤーにも、これと同様の機能が必要になります。
「マルチメディアデイジーの入手法」のページで紹介している、日本障害者リハビリテーション協会のデイジー教科書では、ユーザーの要望に応じて全ての漢字にルビを振った「全ルビ」の教科書も提供していますが、分かち書きには対応していません。
デイジーには音声がついているので、ルビや分かち書きは不要ではないか、という素朴な疑問もありますが、「お話しや物語」のように「始めから通して聴く」だけでよいのと異なり、教材や一般文書では「必要なところを探して読む」ことが多く、音声だけだと時間がかかってしまうため、ルビは非常に有効だと言われています。必要なところを大凡みつけて、そこを丁寧に聴いて理解する、という具合です。分かち書きも同様の効果があります。実際、日本障害者リハビリテーション協会がデイジー教科書利用者を対象にして実施したアンケート調査では、利用している児童生徒の内の約30%が、文章中に単語の区切りの縦線を入れるだけで読むことが出来るようになると答えています。
しかしながら、どのような区切りで分かち書きを行うべきか(連文節か単文節か等)、明確な基準や調査報告もない状況のため、日本障害者リハビリテーション協会のデイジー教科書では「製作基準」に分かち書きは入れていません。ディスレクシアの人達のための日本語の分かち書きの方法と効果について、今後学術的な研究調査が行われることを期待します。
学術的に裏付けられているわけではありませんが、分かち書きされた文章を読みながら(見ながら)読み上げ音声を聞いて理解することにより、分かち書きなしでも読める文章が段々と増えていくというという指導者もいます。こうしたことから、閲覧ソフト(デイジプレイヤー)側で、自動で日本語の文章の分かち書きのON/OFFが出来るのが理想的であろうと考えられます。
上記のサクセスネットのマルチメディアDAISYプレイヤーChattyBooksでは、ルビも分かち書きもない文章をプレイヤー側で全ルビ変換や分かち書きをする機能や、閲覧時に分かち書きをON/OFFする機能が備わっています。
書くことの支援
読むことに困難がある人達は「書くこと」にも困難があるのが通例です。
詳しくはChattyBooksのページにあるChattyBooksのマニュアル(PDF)をご覧下さい。
書くことが苦手な子ども達も、ChattyBooksでは自分が書いた文章が活字体の見やすい文字で表示されるために、気持ちよく書けますし、自分が書いた文章が即座に読み上げられるので、確認しながら書き続けることが出来ます。
合理的配慮としてのマルチメディアデイジー
かつては、「マルチメディアデイジーはいいけれど、作るのが大変!」と言われていました。しかし、今はいろいろなソフトウェアが開発されて、非常に簡単に作れるようになってきています。Wordなどのワープロソフトで文書を作成するのと同じような操作で、高品質なマルチメディアデイジーを製作することが出来ます。
詳しくは「マルチメディアデイジーの作り方」をご覧下さい。
教育機関や行政機関、会社の職場などでの「合理的配慮」のためにも、教材やさまざまな文書をマルチメディアDAISYにして、読むことに困難がある人達に提供する取り組みをして頂きたいと思います。
特に、教育現場での「試験問題」はボランティアが作成するわけにはいきません。教師自身が製作できるようにする必要があると思います。
トップページ掲載した「しゃべる図書館Chatty Library」(https://chattylib.com)には「テキストやPDFをアップロードして、DAISYに変換する機能」があり、それを修正、編集する機能もあります。この機能を用いて、試験問題を自分でDAISY化して、読み困難がある生徒達のための合理的配慮に利用し始めている先生達も出始めています。今後、更に教育現場でのディスレクシアの人達への合理的配慮が進んでいくことを期待します。
下記のアピール文をご一読下さい。
平成26年に全国6ヶ所で実施した「マルチメディアデイジー製作講習会」で配布したアピール文「合理的配慮とマルチメディアデイジー」
